
毎日汗ダラダラだったかと思っていたら、いつの間にか寒い季節がやってきました。
寒くて暗い朝、暖房と温かい飲み物で身体を温めながら、ひとり静かに勉強するのが大好きで、休日の朝ほどいつもよりも早く起きて、そんなひとときを味わっています。
冬の早朝の静けさの中というのは、とても集中することができ、様々なアイデアが浮かぶのも、また改良や改善のアイデアが浮かぶのもこのひとときの集中のお陰で、皆様にもそんなひとときがおありでしょうか?
先日、お世話になっている社長さんからインドのナンをキッチンカーで販売するので力を貸してほしいと言われて、初めて本格的なナンづくりを行いました。
パン屋が行っているナン、あるいはホームベーキングでフランパンなどで焼くタイプのナンでしたら何度か作ったことがあるのですが、今回は本格的なタンドール窯で作りたいということで窯を購入されていましたので、まずはインド料理の店にお邪魔して実際の作業を拝見してきました。
ネット上にもレシピは多々公開されていますが、ナンにも実に多くの配合が存在することを改めて知りました。
使用する小麦粉もまったく違っていて、強力粉で行う人もいればブレンドして行う人もいて、中には薄力粉だけのレシピもありました。
まあ言ってしまえば、店の数だけレシピもあるということで、要するに好みの問題なのだとは思いましたが、数件食べ歩いただけでもかなりの違いを感じることが出来ました。
ならばと挑戦が始まり、初めのうちはパンの配合に寄せた感じで作ってみたのですが、それはそれで皆に食べさせると、「美味しいパンですね」ということになってしまい、これではナンとしての本意から外れるなと感じたのでした。
小麦粉のブレンドも数種行ったのですが、やはり美味しいパンになってしまいました。
「あの、カレーなどを付けたときに丁度よい味わいになる為には、あまり個性を出しすぎてはいけないのではないか」と反省し、シンプルだけどまったりとして味わいのある舌触りのナンを目指して数回試作を重ねて、ようやく独自の美味しさにたどり着くことが出来ました。
今回のナン作りもそうですが、最近とても重要なことに改めて気付かされた気がしているのです。
それは、
「複雑な製法や長時間発酵が小麦の風味を奪うこともある。」
ということでした。
短時間発酵とかストレート法では、美味しいパンにはならない・・・
こだわるということは、そこにひと手間かけることでしか得られないのだ・・・
何となくそんな風に考えていた自分がいた気がします。
しかし、時にシンプルなパンほど小麦本来の味わいとか風味とかを感じることができる場合があるということを最近とても感じるようになりました。
そんなことを気付かせてくれたフランスパンがあるのですが、その開発には条件がありました。
それは、時間をかけなくても味わいのあるパンにしてほしいという依頼でした。
当時は「そんな事ができるくらいならパン屋は誰も早起きなどしないわ・・・」と言いたかったのが本心でしたが、何事もやってみなければわかりません。
そこで私の少ない脳みそで考えついたのが「麺用粉」でした。
あのうどんのような滑らかな舌触りとか風味を出すことができれば、発酵の旨味に引けを取らないものができるのではないかという浅知恵が湧いてきたのです。
かくして麺用粉をブレンドしてフランスパンを作ったところ、なんとも美味しい想像以上のパンが完成したのでした。
以来私は、何かと麺用粉のブレンドを行うようにしてきたのですが、そのパンを作っていてまたしてもとても大切な事実に気付かされるのでした。
それは何かといいますと、ほぼすべての従業員がそのパンを買って帰るという事実なのでした。
試作品もそうですし、多少焼きすぎてしまったりしたロスであっても、皆奪い合うように持って帰るのです。
更に更に、オーナーまでも週に何度も買って帰ります。
皆さんが言うには、ご家族が皆このパンを喜んで食べているということでした。
ということは、老若男女すべての世代に受けていることに他なりません。
私もそれはそれは数多くのパンを今まで作って来たわけですが、その度に美味しい美味しいと言っていただいてきたつもりです。
しかしそれは美味しさをアピールしまくってお勧めした時もありましたし、正直すべてが売れ筋になったわけでもありません。
ところが麺用粉をブレンドしたフランスパンに関しては、そのリピート率は半端ではありません。
購入される度に、お客様の殆どに「本当に美味しいわよね~」と何度も何度も言われ、従業員からも美味しい美味しいと連呼されます。
むしろ、このパンを勧めて美味しいと言われなかったことのほうが記憶にありません。
このことは実はとても重要であると私は考えています。
ただ、すべての麺用粉がパンに合うかどうかは分かりません。
なぜなら、数多くの製粉会社がそれぞれの地域にもあるでしょうし、日本だけでなく海外の小麦粉も手に入る時代で、しかもパン用の小麦粉に負けないくらいの品数が麺用粉にもあります。
もし興味を持たれるのだとしたら、いつも取引されている製粉会社で使われているもので試していただくことをお勧めいたします。
そして、どういったイメージのパンに合うのかと言うことを個人的なイメージでいうならば、
ベトナム料理のバインミーのような野菜中心のサンドイッチなどを作る場合、麺用粉で作るフランスパンのモチモチ感がとても良く合います。
比較的薄いクラストになるために、軽くて食べやすいサンドイッチになるでしょう。
こんな感じで食べて頂く場合も、パンが軽くてモチモチだとジャバジャバ付けてモリモリ食べることが出来ます。
「一生懸命食べていたら口切った」ということがなく、様々なスープにも合う食感になるでしょう。
フォカッチャサンドのようにしても、バクっと噛みつくことが出来ますし、モチモチしているのに歯切れがよいのが特徴のパンとなるでしょう。
また、なんとも言えない喉越しとか後味を感じることができるパンになります。
かと言って、十分にパリパリとしたクラストにもなりますから、香ばしさも満足できますよ。
このように具材を練り込んだり巻き込んだりするパンに非常に向いています。
ということは、限りなくアイテムを広げられるということになるのではないでしょうか。
軽いのにモチモチというのは、うどんが大好きな日本人には確実に受けると考えます。
お馴染みの明太フランスですが、このようにリベイクするときにもクラストが硬くなりすぎずに軽く焼き上がります。
「硬いのが好き」というフランスパン好きにはちょっと物足りないかもしれませんが、麺用粉を使用したパンの独特の喉越しは、きっと病みつきになりますよ。
ということで、私はこれからも大いに麺用粉を活用したパンを開発して行きたいと思っています。
相変わらずここでレシピなどを公開することはしないわけですが、それは理解できる人には理解できると思うのですが、理解できない人には理解できないでしょう。
何当たり前のこと言ってんの・・・??
そう思われる方もいらっしゃるでしょうが、実際に同じようなレシピを違うパン屋さんで行ったとしても、そのお店のやり方、そして設備、そして普段からの製法、そして技量などによって全く違うパンになってしまうのです。
ですので皆様には、この記事を参考にしてインスピレーションを湧かしてほしいのです。
具体的にお知りになりたいという場合は、どうぞお仕事としてお供させていただけたらと思います。
今あらためて製粉会社のホームページを見漁っていくと、全粒粉がずいぶんと作られるようになったと感じます。健康的なイメージや見た目の差別化という意味では使われることが多い全粒粉ですが、先日も全粒粉ばかりの展示会に行きましたが、正直美味しいと思えるものには出会えませんでした。これはけして全粒粉が美味しくないということではないと思いますが、菓子パン好きの日本人にはあまりにもハードルが高すぎる、個性が強すぎることの現れではないかと感じました。ただそれらを使いさえすれば差別化できるということではないのだということ、全粒粉の美味しさを表現するにはまだまだ私達の開発力が追いついていないのではないかとも感じました。・・・が、これからも挑戦し続けます。
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最終更新日 : 2022-12-11