前回に引き続き、今回ご紹介するのは、とある天然酵母パンのお店です。
駐車スペースも充分備えた、とても立派な作りの店内。
これだけのお店なら、個人店だとしたらかなりのお金がかかったはず・・・・
そんな広い店内に置かれている、あまり多くは無いパン達。
そして、なにやらパン屋とは思えないような香り。
オーナーらしき女性が一生懸命パンを作っている。
広い店内には、製造はその女性のみで、販売員が2名ほどいた。
商品陳列からして、売上は5~6万円程度ではないかと推測されるが、はたしてそれで支払いは大丈夫なのだろうか?
そんな事が気にはなったが、その日の目的はそんな事では無かった。
以前このお店の常連であると言うあるお客様から、この店のパンを頂いた時のことである。
袋を開けるや否や、つ~んと鼻をつく異臭・・・・
こ・・・これはもしや!!!!
そのあまりの香りに、部屋中のスタッフが鼻をつまんだ。
何とも言えない酸っぱい香り。
これはまさしく酢酸菌に支配された天然酵母の香りだと思いました。
しかし、このパンをくれた女性は、その酸っぱさが良いのだと言いきっていました。
人の味覚と言うのは、これほどまでに違うものなのか???
このような凄まじく酸っぱい食べ物を、どうして美味しいと言えるのか???
到底理解は出来ませんでしたが、人の好みは好みとして、これはやはりまずいのではないかと判断した私は、種の管理状態を見せてもらうべくお店に足を運んだのでした。
しかし、残念ながらお見せする事は出来ないとの事。
一通り説明はしましたが、皆さんこれで喜んで下さっているとの一点張りで、ならば保健所に通報するしかないとも言ったのですが、どうぞと言われてしまいました。
皆様はあまり口にした事が無いと思いますが、特に小麦粉から培養した天然酵母に起こりがちな現象として、この酢酸菌の増殖による、恐ろしく酸っぱい香りのするパンが完成してしまう事があるのです。
果実から天然酵母を作る方は多いと思われますが、果実酵母には比較的出にくく、小麦粉から作る酵母によく見られる現象なのですが、日にちが経過するほどに酸っぱさが増していく菌が、この酢酸菌と言うものなのです。
この酸っぱさは、まさにお酢のような香りで、まるで焼き立てのパンにお酢を染み込ませたかのような、凄まじい酸っぱさのパンになるのです。
更に怖いのは、焼き立てではあまり香りが目立たないのですが、日にちを置くと、更に酸っぱさが増していくのです。
その店のオーナーは、その酸っぱさがパンの日持ちに貢献するのだと言っていました。
それは正にその通りで、理論上酸っぱいということは、恐ろしいまでに酸性に近いパンであると言う事ですから、カビが繁殖しにくく、長持ちするパンになるのです。
また、この酸っぱいパンは、食べたら即お腹を壊すと言うような菌ではありません。
ですから、酸っぱくて何が悪いのか、理解してくれるお客様だけに買っていただければ良いのです・・・
その様に言うオーナーの意見も、けして間違いではないのです。
では、この菌は腐敗ではないのかと言いますと、そこは非常に微妙な所だと思います。
現に、パンを発酵させる力は充分に備えていますので、いわゆる正しく強い菌の邪魔をする事無く、それでいて焼成後には凄まじい香りを発すると言うものなのです。
では、パンを膨らませる菌と言うのは、すべてが良い菌なのかと言いますと、それもそうとばかりは言えません。
なぜなら、例えば夏場にじゃがいもや魚などを含んだ生ごみを二日も放置すれば、凄まじい異臭を発しますよね。
そして、良く香りを嗅ぐと、ツ~ンとした発泡臭であることが解ります。
このツ~ンと臭う生ゴミでも、パン生地は膨らんでいくのです。
ただし、到底食べる事はできませんよ。
ですので、パンが膨らめばそれはすべて良い菌なのだと言う事にはならない訳なのです。
人と言うのは、このツ~ンとする臭いや、いわゆる異臭と言えるような臭い、そして薬などは別としても、とんでもなく苦いものなどには、それは腐っているのかもしれないという反応をするものです。
事実、それらは概ね腐っている部類に入ると言えるかもしれません。
今回のお店の場合は、その菌を種継ぎすることによって、ほぼ無敵の酢酸菌を作り上げてしまったのです。
オーナーいわく、初めてのお客様は皆そのように言いますが、馴れていくと美味しさを感じるのですとの事。
経営者が良しと考えているのであれば、別に法に触れている訳ではありませんので立ち去るまでですが、もしも下痢などの症状を訴えるお客様が現れたら、このお店はお終いだなと思いました。
前回、消費期限などの話をしましたが、パンも日持ちさえすれば良い・・・・と言う訳にはいきませんよね。
クッキーやラスクが比較的安易な包装でも日持ちがするのは、一般的な乾物と同様、水分が少ない事に起因していることは皆様もご存じだと思います。
水分がとても多いパンの場合は、日持ちをさせるというのは至難の業で、焼き上がってから食べるまでの間どのように保存すれば少しでも日持ちするか、品質保持できるかなど、常に気を使う事になる訳です。
パンに比べれば、油脂や砂糖の量が格段に多いパウンドケーキでさえ、そのままだと数日もすればすぐにカビが生えてしまいます。
パンやパウンドケーキのように、しっとり感というものを味わいたい食べ物の場合には、その代償として品質劣化スピードが速いという宿命と闘う事になります。
日持ちさせたければ水分を飛ばさなければならず、するとしっとりとはいかないのだと言うのですから、皮肉なものです。
そこで英知を結集して、包装することで日持ちさせようというのが今時の品質保持の基本となっているのです。
その反面、パンそのものにも、より日持ちに貢献できるような製法や材料を用いて、すこしでもしっとり感が長持ちするようにとの工夫が日夜研究されていることでしょう。
完成品から水分の蒸発を防ぐ、あるいは遅らせるための手法。
完成品を雑菌から守り、カビの繁殖を遅らせる手法。
完成品にチョコレートや砂糖などをトッピングして外気から遮断する手法。
どうにかして少しでも日持ちさせたい・・・・
パン作りに携わるものなら、少なからず誰もがチャレンジし続けているテーマだと思います。
ただし、美味しさと言うものを逸脱しては、それはかなわないと思うのです。
あくまで美味しく、そしてあくまで安全で、尚且つ出来るだけ日持ちするような研究を、私達は行っていく責任があるのではないでしょうか?
駐車スペースも充分備えた、とても立派な作りの店内。
これだけのお店なら、個人店だとしたらかなりのお金がかかったはず・・・・
そんな広い店内に置かれている、あまり多くは無いパン達。
そして、なにやらパン屋とは思えないような香り。
オーナーらしき女性が一生懸命パンを作っている。
広い店内には、製造はその女性のみで、販売員が2名ほどいた。
商品陳列からして、売上は5~6万円程度ではないかと推測されるが、はたしてそれで支払いは大丈夫なのだろうか?
そんな事が気にはなったが、その日の目的はそんな事では無かった。
以前このお店の常連であると言うあるお客様から、この店のパンを頂いた時のことである。
袋を開けるや否や、つ~んと鼻をつく異臭・・・・
こ・・・これはもしや!!!!
そのあまりの香りに、部屋中のスタッフが鼻をつまんだ。
何とも言えない酸っぱい香り。
これはまさしく酢酸菌に支配された天然酵母の香りだと思いました。
しかし、このパンをくれた女性は、その酸っぱさが良いのだと言いきっていました。
人の味覚と言うのは、これほどまでに違うものなのか???
このような凄まじく酸っぱい食べ物を、どうして美味しいと言えるのか???
到底理解は出来ませんでしたが、人の好みは好みとして、これはやはりまずいのではないかと判断した私は、種の管理状態を見せてもらうべくお店に足を運んだのでした。
しかし、残念ながらお見せする事は出来ないとの事。
一通り説明はしましたが、皆さんこれで喜んで下さっているとの一点張りで、ならば保健所に通報するしかないとも言ったのですが、どうぞと言われてしまいました。
皆様はあまり口にした事が無いと思いますが、特に小麦粉から培養した天然酵母に起こりがちな現象として、この酢酸菌の増殖による、恐ろしく酸っぱい香りのするパンが完成してしまう事があるのです。
果実から天然酵母を作る方は多いと思われますが、果実酵母には比較的出にくく、小麦粉から作る酵母によく見られる現象なのですが、日にちが経過するほどに酸っぱさが増していく菌が、この酢酸菌と言うものなのです。
この酸っぱさは、まさにお酢のような香りで、まるで焼き立てのパンにお酢を染み込ませたかのような、凄まじい酸っぱさのパンになるのです。
更に怖いのは、焼き立てではあまり香りが目立たないのですが、日にちを置くと、更に酸っぱさが増していくのです。
その店のオーナーは、その酸っぱさがパンの日持ちに貢献するのだと言っていました。
それは正にその通りで、理論上酸っぱいということは、恐ろしいまでに酸性に近いパンであると言う事ですから、カビが繁殖しにくく、長持ちするパンになるのです。
また、この酸っぱいパンは、食べたら即お腹を壊すと言うような菌ではありません。
ですから、酸っぱくて何が悪いのか、理解してくれるお客様だけに買っていただければ良いのです・・・
その様に言うオーナーの意見も、けして間違いではないのです。
では、この菌は腐敗ではないのかと言いますと、そこは非常に微妙な所だと思います。
現に、パンを発酵させる力は充分に備えていますので、いわゆる正しく強い菌の邪魔をする事無く、それでいて焼成後には凄まじい香りを発すると言うものなのです。
では、パンを膨らませる菌と言うのは、すべてが良い菌なのかと言いますと、それもそうとばかりは言えません。
なぜなら、例えば夏場にじゃがいもや魚などを含んだ生ごみを二日も放置すれば、凄まじい異臭を発しますよね。
そして、良く香りを嗅ぐと、ツ~ンとした発泡臭であることが解ります。
このツ~ンと臭う生ゴミでも、パン生地は膨らんでいくのです。
ただし、到底食べる事はできませんよ。
ですので、パンが膨らめばそれはすべて良い菌なのだと言う事にはならない訳なのです。
人と言うのは、このツ~ンとする臭いや、いわゆる異臭と言えるような臭い、そして薬などは別としても、とんでもなく苦いものなどには、それは腐っているのかもしれないという反応をするものです。
事実、それらは概ね腐っている部類に入ると言えるかもしれません。
今回のお店の場合は、その菌を種継ぎすることによって、ほぼ無敵の酢酸菌を作り上げてしまったのです。
オーナーいわく、初めてのお客様は皆そのように言いますが、馴れていくと美味しさを感じるのですとの事。
経営者が良しと考えているのであれば、別に法に触れている訳ではありませんので立ち去るまでですが、もしも下痢などの症状を訴えるお客様が現れたら、このお店はお終いだなと思いました。
前回、消費期限などの話をしましたが、パンも日持ちさえすれば良い・・・・と言う訳にはいきませんよね。
クッキーやラスクが比較的安易な包装でも日持ちがするのは、一般的な乾物と同様、水分が少ない事に起因していることは皆様もご存じだと思います。
水分がとても多いパンの場合は、日持ちをさせるというのは至難の業で、焼き上がってから食べるまでの間どのように保存すれば少しでも日持ちするか、品質保持できるかなど、常に気を使う事になる訳です。
パンに比べれば、油脂や砂糖の量が格段に多いパウンドケーキでさえ、そのままだと数日もすればすぐにカビが生えてしまいます。
パンやパウンドケーキのように、しっとり感というものを味わいたい食べ物の場合には、その代償として品質劣化スピードが速いという宿命と闘う事になります。
日持ちさせたければ水分を飛ばさなければならず、するとしっとりとはいかないのだと言うのですから、皮肉なものです。
そこで英知を結集して、包装することで日持ちさせようというのが今時の品質保持の基本となっているのです。
その反面、パンそのものにも、より日持ちに貢献できるような製法や材料を用いて、すこしでもしっとり感が長持ちするようにとの工夫が日夜研究されていることでしょう。
完成品から水分の蒸発を防ぐ、あるいは遅らせるための手法。
完成品を雑菌から守り、カビの繁殖を遅らせる手法。
完成品にチョコレートや砂糖などをトッピングして外気から遮断する手法。
どうにかして少しでも日持ちさせたい・・・・
パン作りに携わるものなら、少なからず誰もがチャレンジし続けているテーマだと思います。
ただし、美味しさと言うものを逸脱しては、それはかなわないと思うのです。
あくまで美味しく、そしてあくまで安全で、尚且つ出来るだけ日持ちするような研究を、私達は行っていく責任があるのではないでしょうか?
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最終更新日 : -0001-11-30
No Subject * by マサカリ太郎
そのパンはもしかしてサワードゥの専門店なのではないですか?あとサワードゥと仮定するならそのパンを酸っぱくする菌は乳酸菌です。
イースト菌は糖を食ったらアルコールを吐きますから、過発酵してアルコールが増えて酢酸菌が蔓延るのです。最初から酢酸菌ばかりの種を元にしていてはそもそも膨らみません。だからおそらく乳酸菌でしょうと思います。
もしかして本職なのにサワードゥご存じないのですか?
イースト菌は糖を食ったらアルコールを吐きますから、過発酵してアルコールが増えて酢酸菌が蔓延るのです。最初から酢酸菌ばかりの種を元にしていてはそもそも膨らみません。だからおそらく乳酸菌でしょうと思います。
もしかして本職なのにサワードゥご存じないのですか?
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。