そんなフランスパンバカの私が最近行っているのが生地を捏ねてパンチを行ってからは冷蔵庫へ入れてしまうというやり方です。どの段階で冷蔵庫へ入れるのが良いかを色々と調べているうちにこちらのサイトを見つけて、タッパー(小さめのもの)に入れるとボリュームが出るということでしたので早速色々と行ってみた所、見事に今までとは違うふっくらと膨らんだフランスパンが作れるようになりました。感激です。ただ、捏上温度には気をつけないといけないと書かれていて、とても気を使いながら目的の温度を目指しているのにどうしてパンチの後なら冷蔵庫なんかに入れても大丈夫なのでしょうか????正直理解不能です。試しに捏ね上げてすぐに冷蔵庫へ入れてみたことがあるのですが、全く膨らまずに団子のようなパンになってしまいました。当然ですよね。ということはパンチを行ってからは何度の場所で発酵をとっても大丈夫ということになるのでしょうか・・・・
捏ね上げ温度以降の生地温度(管理)についてです。バゲット(主にハード系)の捏ね上げ温度と言えば23度ですよね?その後パンチで生地を育てて行くわけですが、パンチを待ってる間やパンチを行なってる間にも生地温度の変化はありますよね?実際捏ね上げてから1回目のパンチまでの間に少しづつ温度が上がっていってるのが確認できたのですが、これは捏ね上げ温度に戻すために冷やした方がいいのでしょうか?特に今の時期〜夏場はグングン生地温度が上がっていき、成形→ホイロと進むにつれびっくりする温度に変化するんじゃないかと想像するのですが、この件についてパン屋さんでは生地を冷やす等されてるのでしょうか?それともベンチやホイロを早めに切り上げるというやり方でいいのでしょうか?手持ちの本やネットの情報では捏ね上げ温度については必ず書いてあるものの、その後の生地温度の管理について殆ど書かれれるものがなく、常々疑問に思ってました・・・
ただ美味しい、ただ美しい、ただ楽しいというのも大切なことですが、そこに ”なぜ”が加わることで、毎回毎回のパン作りが確実に積み上げられていくことになり、楽しみも応用力も数倍に広がっていくことでしょう。
さて、タイトルにも書きましたが、今回はパン作りにおいてとてもとても大事な約束事である捏上温度を守るということよりも、さらにさらに大切なことがあり、それは捏ね上げてからの温度管理なのですよというお話です。
ご質問にもあるように、捏上温度や第一発酵時間とかフロアータイム、最終発酵とかホイロとか焼成時間などはどの本でも書いてあったりしますが、確かに保管温度というのはご家庭向けの書籍にはあまり登場しないかもしれませんね。
この部分に関しては、「部屋を暖かくして」とか「エアコンの風が当たらないように」とか、柔らかい表現を用いることのほうが多く、何度の場所(発酵室)で何分という表現はパン屋さん専用となっていることが多いと思います。
つまり、ご家庭ではそれほど厳しく捉える必要はない、あるいはそんなにきっちりと室温を調整することは困難、ましてや発酵室などというものはほぼお持ちでないということなどを考えて、あえて特には指定しないのではないでしょうか。
では、捏上温度よりも大切だという保管温度を家庭ではないがしろにしていいのかというと、けしてそう言う訳ではないのです。
パンを作るときには、部屋を暖かくして、キチンと計量をおこない、オーブンは規定の温度まで予熱しておき・・・・というように、部屋をパン生地の発酵に適した温度帯にしておくことは準備段階から必要ですよとほとんどの書籍に書かれていますし、解りやすく言えば5月位から10月位まででしたら、室温はクーラーをガンガンかけている場合を除けばほぼパン作りに適した室温になっていると言えますよね。
ですので、注意しなければならないのはズバリ冬のパン作りの方なのですが、これもまたご質問にもあるように冷蔵庫でも大丈夫なのであれば、結局何度でも大丈夫だっていうことなの???・・・と言いたくなりますよね。
確かにこのあたりの考え方は非常にややこしいですし、逆に言うとこの部分をしっかりと掴んでおきさえすれば、もう捏上温度にビクビクする必要もない・・・かもしれませんよ\(^o^)/
では本題に入っていきましょう。
フランスパンの捏上温度は22℃~24℃と低めの設定になっていますが、そもそもこれが菓子パンなどのリッチなパンであったらフィッシュアイだらけのカチカチパンになってしまう温度ですよね。
ではなぜフランスパンだけは低めに捏ね上げなければならないのかといいますと、それは使用するイーストが他のパンでは生イーストがメインであるのに対して、フランスパンの場合はインスタントイースト(この場合は無糖用)を使うことが多く、インスタントイーストの発酵力をコントロールしながら美味しいフランスパンを作るには、低めの温度で少しずつじっくりと発酵を行うことが重要なポイントになるからです。
少しずつじっくりとという意味では、天然酵母やルバンなどを使った製法でも低めに捏ね上げるということは同じだと思いますが、言い方を変えるとじっくり発酵を行っていく為には、インスタントイーストが活発に動きすぎない温度を守ること・・・という表現になります。
インスタントイースト(本当はインスタントドライイーストと呼び、別に活性ドライイーストというものもある)は発酵力がとても強く、このイーストを使って通常の28℃以上に捏ね上げてしまうと、生地はとんでもないスピードで発酵を開始し、プリプリとした扱いずらい生地となり、成形は行いにくく、まるで食パンのようにキメの細かいフランスパンが完成してしまいます。
フランスパンというのは、焼成時にイースト菌の効果を最大に持っていくことが重要で、早い段階から力を使いすぎてしまうと、焼成時にはもう発酵力が落ちてしまっていた・・・なんてことになりかねかいのです。
そうならないように、低めに捏ね上げて、さらにフロアータイムも長く取り、じっくりゆっくり発酵熟成を行うことで、香り高い本格的なフランスパンになるのでした。
ではここで、仮に23℃に捏ね上げたフランスパンの生地があるとして、その後にどう保管して何度になることがパンにとって望ましいのかを説明しておきましょう。
本来であれば冷蔵などはせずにその日のうちに焼くことが多いと思われますので、一般的なフランスパンの作り方で説明しますが、23℃で捏ね上がった生地を約100分近く発酵を行うと、室温が25℃くらいなら生地温度は24℃で一度程度の上昇ですが、室温が30℃を越えていれば生地温度は26℃位まで上がるでしょう。
生地は発酵中に内部摩擦によって温度が上がっていきますが、それもやはり環境によって大きく違ってくるということが言えると思いますし、室温が高いとパンチの前に26℃に到達してしまい、その後も室温が高いままですと、分割するまでの30分位の間で更に2℃ほど上がってしまうかもしれません。
28℃になって分割を行った生地は、その後も30℃以上の室温の中では下がることはなく、現状維持のまま成形を行いますが、28℃以上の生地というのはかなり膨らみが早く、上記で説明したように焼成前にピークをむかえてしまいます。
一度ピークをむかえたインスタントイーストは、その後もどんどん内部摩擦を起こしていきますので、「発酵は緩やかなミキシング」という原理から考えますと、この発酵はもう緩やかではなく激しいミキシングに相当してしまい、過度にボリュームが出て風味の抜けたフランスパンの完成となるでしょう。
これが例えばパン屋さんのように大量の生地でこうなっていた場合、規定の発酵時間を迎える頃には確実に発酵過多になり、色付きの悪い、やけによく膨らんだフランスパンになってしまいます。
つまり、たとえ捏上温度を厳守したとしても、室温が捏上温度と比較して5℃以上も高い場合は、緩やかな発酵と言うのは難しく、もしどうしても夏場などに35℃以上になってしまうようなパン屋さんの場合は、生地の捏ね上げ温度は20℃以下にしているところもあります。
勿論それは理想とはかけ離れたやり方のように見えますが、規定の発酵時間を守ろうとするゆえのことであり、初めから高い捏上温度にしておいて短時間で完成させてしまうというような作り方をしているパン屋さんよりは余程マシだと言えると思います。
また、ご質問にもあるように、どうしても夏場に室温が上がってしまうような環境では少し冷やしてクールダウンする必要があるかという考え方ですが、室温を30℃以下に抑えることが出来ないような環境であるならば、途中で冷やすということよりも生地の捏上温度を低めにすることの方がお薦めできます。
なぜならば、発酵途中ではすでにイーストが活動を始めており、その生地を冷蔵庫へ入れても、中心部と表面部分の温度差が生まれるだけで、全体的にスムーズに冷えていくということは考えづらいからです。
とは言えこれは、家庭で2~3個作るくらいの量でしたら、ある程度薄く伸ばして冷蔵庫へ入れてもほぼ均一に冷えるとは思いますが、ポイントなのは短時間に温度を上げたり下げたりすることはあまり良いことではないということです。
つまり、どうしても捏上温度が高くなってしまった、あるいは明らかに室温が30℃を超えると解りきっているような場合でしたら、捏ね上がったらすぐに、発酵を開始する前に冷蔵庫で一旦冷やし、2℃ほど下がったところで常温に戻すということをお勧めします。
その方が、その後の発酵の流れを止めることなくスムーズに進んでいくからです。
ということで、理想的なのは23℃で捏ね上げた生地を27℃くらいの場所で発酵を取り、パンチ、分割までの間に生地の温度が26℃程度になっていることが望ましいと言えるのです。
ただしそれはすぐに焼成に入るという前提でのことですので、ご質問にもあるように一旦冷蔵して時間を置いてから焼く、あるいは翌日に焼くという場合にはこの限りではありません。
また、しっかりと捏上温度を守り、保管温度を守らなければならないパン生地なのに、どうして冷蔵庫へ入れても大丈夫なのか・・・ですが、これは簡単に言えばイースト菌の活動が活発になってしまってさえいれば、その後はある程度温度差がある場所に置いても、活動そのものが停止することはなく、むしろ一時休止であったり低温発酵状態にあるということになるのです。
冷蔵庫を使う製法の場合、どの程度発酵時間をとってから冷蔵するのが良いかを掴むことが成功の鍵になるわけですが、それは細かく言えば配合や原材料などによって違いも出てきますのでここで細かく触れることは出来ませんが、ハード系のパンの場合60分を経過したあたりからはイースト菌も活発に動き出してきますので、そのあたりで冷蔵し、冷蔵時間が短い場合は冷え方も少ないはずですので、そのまますぐに分割したり成形したりも可能でしょうし、冷蔵時間が長くなる、または翌日などになる場合はしっかりと冷えてしまいますので、一度常温にてしっかりと温度をもどして再びイーストの活動を活発化させてから分割なりを行わないとならず、あまりこの製法を行わない人にとってはややこしい話でしょう。
さらに冷蔵庫ではどのような入れ物で冷蔵を行うかによって、その発酵の進み方が大きく変わってきますので、それによって風味や生地のボリュームなども全く違ってきますし、さらにさらにややこしさが増すでしょう。
ということである程度はお分かりいただけましたでしょうか。
付け加えておきますと、フランスパンの発酵環境は湿度も大いに関係してきます。
とは言え、一般家庭の梅雨時の湿度で充分で、家庭においてはむしろそれ以上に加湿することの方が難しいと思われますのでこの点は大丈夫でしょうが、成形を終えて最終発酵を行う際の温度も30℃以上にしないようにしてほしいと思います。
パン屋さんでよく見かけるクープの開いていないフランスパンですが、その殆どがホイロの温度及び湿度が高すぎることが原因です。
せっかく成形までを完璧に行ったとしても、最終発酵で温度が高いと最悪の結果を生むことになりますので、家庭でもその点には充分ご注意頂きたいと思います。
発酵は科学ですから、本来ならすべて、この配合で何度の時にはどうなっていて・・・と言うような理詰めの話になるのでしょうが、パンを作る実際の場で大切なのは、特にフランスパンの場合には ”ガスの含み具合”というものをしっかりと掴む事、そして ”生地の弾力” を見極めてどう成形するべきかを決めること、この2点がとても大切です。
「時間と温度の関係を手の平で掴む」
お二人ならできそうですね、負けそうだぞこりゃ ^^;
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最終更新日 : 2023-08-01