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2019-06-30 (Sun)  06:11

なぜパンチで生地が出来上がるのでしょうか・・・

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パンチで生地を作っていく・・・そんな作り方をしたことがある方というのは、いったいどれくらいいらっしゃるでしょうか?

いや、あまりいないでしょうね実際・・・

パン屋さんではほぼあり得ませんから、行っているとしたらホームベーキングの方々になろうかと思いますが、「生地が捏ねられていくというのは、具体的にはどういうことなのか??」みたいなことに少しでも興味があるようでしたら、ぜひともこの際チャレンジしてみてほしいと思います。

私とパン生地の出会いというのは、仕事で始めたパン屋でのミキサー仕込みからでしたので、当時は全く何も考えることなく、機械に原材料を入れて何分捏ねるか、ギヤーは何段で捏ねるか程度の理解度だったのですが、次第に捏ね上げたときの温度がいかに重要か、さらにはどのようにして捏ねていくことがそのパン生地にとって最良かを考えるようになり、ミキサーにも種類が色々あること、そして何よりも捏ね方次第で様々な変化を見せるパン生地に興味津々でした。

パン教室などを開くことも増え、ご家庭でも作りやすいパンの提案を色々と研究したりもするなかで、しっかりと捏ねることがある意味当然のようになっていること、そしてそれがキメ細かさやボリュームに大きく影響してくることなどは理解できたのですが、なぜかその味に対してだけはなんとなく「普通だな~」的な印象しか持てないでいたのです。

そんなある日、いつも使っているお気に入りのフランス粉を使っていつも通りのフランスパンを作るはずが、ちょっとしたきっかけで捏ね上げ温度が非常に低くなってしまったのです。

いつもよりも6℃も低くです。

これはいかんということでひたすらパンチを繰り返したのですが、出来上がったパンはいつもの姿とは全く違うもので、とても売り物にはならない状態になってしまったのです。

がしかし、それを食べた時の感動的な風味に衝撃を受けてしまったのでした。

今まで何を食べても「何かが物足りない・・・」そう感じていただけに、その個性的な風味はなぜ生まれたのかをどうしても知りたいと言う思いに駆られ、その後は温度を変えたり冷蔵してみたりパンチを何度か行ってみたりと試行錯誤してきましたが、なかなか思い通りの風味を得るための製法が具体的につかめない日々が続きました。

同じ小麦粉を使っても、ストレート法や冷蔵法、そして中種などで味や風味が違ってくることは当然のことながら実感していましたが、その時の感動はいわゆる発酵による風味ではなかったのです。

甘味とでもいいましょうか旨味とでもいいましょうか、直感的に素材の旨味ではないかと感じたのです。

それまでは、パン生地の旨味イコール発酵時間と単純に理解していたところがあり、副材料の配合と製法にばかり目を向けてしまう傾向があったのですが、そもそもそれぞれ違う小麦粉を使っているにもかかわらず、その個性を生かせていないのではないかと言うことに気が付いたのでした。

その後、捏ね方というものに強くこだわりを持つことで、小麦粉本来の個性を引き出すことができるようになった気がしてきたわけですが、かと言って現実にはミキサーでブンブンこねくり回していることに変わりはなく、ミキサーによっては生地がペターっとしてしまうほど切り刻まれるように捏ねられるものもあり、がしかし結局はそれでもキメ細かいパンにはなる・・・???

パン生地にとっての最良の捏ね方とはいったいどうするべきなのか・・・ということを今でも日々模索しているのでした・・・アホですねしかし・・・

ホームベーキングをされている方々から送られてくる画像を拝見しますと、そのほとんどは捏ねすぎていることが多い気がします。

良く膨らんでいくんだろうなとは思うものの、つきたての餅のように艶々ベタベタしてしまっている生地を見ると、やはりどうしても小麦の旨味とか甘味はもうないだろうなと感じてしまうのでした。

私が捏ね方についてどう感じているのかはともかくとして、捏ねた時間に比例してパンの膨らみ方というのは歴然と変わっていきますよね。

捏ね方が足りないとボリュームがでないだけではなく、皮の厚い内層の荒いネチョネチョとしたパンになってしまいますので、そうなると素材の旨味どころかパンとして最悪のものになってしまいますよね。

特に手捏ねを行っている方に多い現象ですが、やはり手で捏ね器のようにしっかりと捏ねるというのは実際難しいと言わざるを得ませんでした。

手で捏ねても、そんなにしっかりと捏ねなくてもボリュームのある生地ができないものかということで行き着いたのが今回のパンチで生地を作るというやり方なのですが、ではなぜパンチを行うだけで捏ねたのと同じ効果が生まれるのでしょうか?

ミキサーなどでしっかりと捏ねられた生地と、ろくに捏ねもしないでパンチを数回行うだけで、本当に同じようなパンになるものなのでしょうか・・・

そのあたりについて少しだけ詳しく考えてみたいと思います。


まずパン生地を捏ねるということは一体どういうことなのかを考えてみますと、要するに生地の中にいかに風船をたくさん作るかと言う作業になる訳です。

たくさんの風船が出来上がることによって、イースト菌の発酵によるガスが風船の一つ一つを膨らませていくわけですね。

風船の数が多いほどキメ細かい内層になりますので、しっかりと捏ねることが大切であるということに繋がっていくわけですが、風船は数だけではなく質もとても重要になってくるのです。

つまり、滑らかな薄い風船の方がどこまでも良く膨らんでくれますし、そのおかげで食べ口もソフトになるからです。

逆に、捏ねが足りないと風船の数も少ないし、よく膨らむ滑らかな風船になりませんので、発酵途中で割れてしまってよく膨らむことができなくなってしまうのです。

こう考えますと、何はともあれしっかりと捏ねることは必須条件である・・・そう考えてしまうのは至極当然のことでしょう。

もちろん私もそのことを否定しているわけではまったくありません。

ただ、なんでもかんでもしっかりと捏ねた方が美味しくなるという考え方には若干違和感があると言えます。

では次によく捏ねていない生地をパンチしていくわけですが、そもそもパンチで生地を作っていく際によ~く考えておかなければならないことがあります。

それは、もしも生地にイーストが入っていなかった場合、何度パンチを行っても捏ねたことにはなりません。

イーストが入っているからこそ、パンチを行う意味があるのです。

どういうことか説明しておきましょう。

そもそもパン生地というのは、イーストの発酵によって時間の経過とともに生地内部で風船が膨らんでいきます。

その際にそれぞれの風船が隣の風船と押し合いへし合いすることで摩擦がおきます。

この摩擦がいわゆる「緩やかなミキシング」を生むわけですね。

ということは、発酵時間の経過とともに生地はゆっくりですが捏ねられながら膨らんでいるとも言える訳です。

その、ゆっくり捏ねられながら膨らんでいる生地に圧力を与えて風船を分散し、それを畳んでいくことで、風船の数は倍・倍・倍と増えていきます。

同時に新しい空気の層が内部に取り込まれていくことによって、さらに風船は膨らみを増していくのです。

ミキサーによってあらかじめ出来上がった無数の風船と言うのは、発酵中はほぼ数に変わりはありません。

その生地を分割する際にようやく内部に新しい空気が入り、切ったり丸めたりすることで風船の数が増えたり、扱いが悪いと逆に減ってしまったりということになるわけですね。

ミキサーから捏ねあがった生地を通常はこのように保管しますよね。


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表面を滑らかな状態にして、生地をバランスよく入れ物に入れます。

しかしながら、そんなことはおかまいなしと言う人が入れるとこうなります。


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ただ入れ物に突っ込んだだけ、どうせ四角い箱に入れるんだから、どう入れたって四角く膨らんでいくでしょ・・・みたいな人がいますよね。

そんな人にはまず、パンチで生地を作るというのは不可能かもしれません。

なぜなら、膨らんでいく過程において、時間の経過とともに風船はより膨らむことになり、より薄くなって割れやすくなっていきます。

生地の扱いに気を使えるかどうかによって、パンチによって風船の数を倍増させていくどころか割りまくってしまうことになるからです。

生地の取り扱いを見ていると、こんな風に生地をつかむ人がたまにいます。


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まさにこれが風船を割る行為ですね。

膨らんでいない時ならいざ知らず、膨らんでからこのような扱いをおこなっている人はいませんか。


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いつでも生地に対して触れるときには、風船がより多く増えていくような触り方をしなければなりませんよね。

ということで、倍々に風船を増やしていけるかどうかが、この作り方の最大のコツになるわけですが、ミキサーで捏ねた生地と、あまり捏ねないでパンチを繰り返した生地というのは全く同じになるのかと言いますと、理論上は全く別ものであると言えるでしょう。

小麦粉にその他の原材料を加えて捏ねることによって、安定した複数の風船と、その骨格となるグルテンが形成されていくというのが製パンの基本的な理論ですし、その部分はパン作りにおいて最も重要な部分となります。

摩擦上昇温度や生地が適度に捏ねられることを十分に考慮して研究されてきたミキサーによって、適正なミキシングを行うことが最も安定的なパン生地を作り出すことも周知のとおりです。

他方パンチを繰り返して風船を増やしていくと言う行為は誠に不安定であり、部分的な膨らみの違いが発生したり、特に違うのは生地内部と表面部の生地の緊張感です。

内部と外部に温度差が生じたり、生地切れを起こしやすい部分とそうでない部分が混在しているようなまさに不安定要素満載感はいなめません。

がしかし、それによって得ることができる「いつもと違う風味や旨味」があることもこれまた事実です。

製パン理論と真剣に向き合いながらも、旧態依然ではない発想だけは大切にしたい・・・

発想は自由ですからね・・・



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最終更新日 : 2023-07-30

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