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2022-03-06 (Sun)  12:31

配合・製法を見直す決意とは・・・

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先日、配合やミキシングを中心としたアドバイスを送ったお店からこんな問い合わせがありました。

「全体的にミキシングを見直したおかげで、生地がとても成形しやすくなり、窯伸びも良くなりました。とても感謝しています。

ただ、以前のベタベタではありましたが捏ね過ぎだと指摘を受けたミキシングで作ったパンのほうが翌日もしっとりしていて美味しかったなと個人的にではありますが感じています。

もとのようにミキシング時間を変更しても大丈夫でしょうか・・・」

ということで、一時は成形しやすくてとてもいい感じになりましたと聞いていたのですが、以前の方が美味しかったとのオーナー個人の判断でもとに戻したいと言うことのようなのです。

ちなみにオーナーには内容をブログで紹介することは店名を伏せればとの条件付きで了承を得ております。

経緯はこうです。

ミキシングにとても時間がかかっていて、生地が皆ベタベタしている気がするので、はたして適正なミキシングが出来ているかどうかを動画で確認してほしいということで送っていただいた動画を確認したところ、見事にミキシングオーバーだと判断できましたので修正した配合表をお送りして数ヶ月が経過したのでした。配合には明らかにおかしな点がいくつかあり、それも合わせてアドバイスさせていただきましたが、すべてアドバイス通り変更されたようで、その後送っていただいた画像では完成品は明らかに良くなっていたと感じていたのですが・・・


オーナー自信がそう感じたのであれば、もとに戻されるのは私が判断すべきことではありません。

以前のパン作りが間違っていて、私のアドバイスが正解だというようなものではないわけで、すべて当事者が判断して行うべきものだと思います。

ただ一つ気になるのは、オーバーミキシングで生地がベタベタになるというのは現実問題ですから、ベタベタと美味しさを秤にかけてベタベタの方をあえて選択したということのように聞こえるのですが、はたして本当にその捉え方で良いのか疑問に思います。

オーバーミキシングのお店というのは実は経験上とても多いと感じていまして、逆にあまり捏ねないパン屋さんは実に少ないのが実情です。

それはなぜかといいますと、そもそも務めていた、あるいは修行してきた、あるいは製パン学校、あるいは大手工場、あるいは中小のパン工場などでは、ほぼほぼややオーバーミキシングを推奨しているからです。

なぜかといいますと、そのほうが気泡がたくさん出来てふんわりソフトなパンになるからで、パン内部に空気を多く含んでフワフワとしたパンになるということは、いわゆる外皮も薄くなりスポンジのようにきめ細かな食感にもなり、日本人の大好きな「しっとりやわらかい」という食感にマッチしているからです。

しかし私は逆で、あまり捏ねない、無理に膨らまさないパンの美味しさに魅せられて、どちらかと言うとすべてのパンから小麦の味を感じることが出来るようなパン作りを推奨してきたのです。

特に近年国産小麦の品種が多く出回るようになり、国産小麦を使ったパン屋さんが多くなってまいりましたが、外国産小麦と同じように捏ねてしまうことで生地に摩擦がかかりすぎてグルテンが切れてしまい、ベタベタになり、風味も旨味もなくなってしまうような作り方を多く見てきました。

確かに限界ギリギリまで捏ねることでパンがソフトになることは理論上確かでしょう。

しかし、大手工場がそのようなパン作りしか出来ないのであれば、尚更「噛みしめるたびに味わいがある」と感じるようなパンを作っていくのが焼きたてパン屋の使命なのではないかと思うのです。

これは正しいとか、間違っているという話ではなく、パン作りそのものに対する姿勢の問題なのです。

今までは何の意図も根拠もなく捏ねていた、そしてそれは生地が悲鳴を上げているようにしか見えないような捏ね方であったと一度はオーナーもスタッフも実感し、ほぼすべてのミキシング時間を変更する決心をしたことで、それはすべて意図通りにパンの完成度として現れました。

しかしそれをまたもとの捏ねすぎに戻すのであれば、以前のパンに戻るだけであり、何のためにご相談されてきたのか意味がわからなくなります。

以前の方が美味しかった気がする・・・というのは柔らかさが長持ちした気がするということなのではないでしょうか。

だとしたら、それは発酵時間とか成形手法とかホイロのタイミングとか焼き方とかでカバーすべきなのであり、捏ねが足りていないから柔らかさが継続しないという話ではないと思うのです。

本来はそのあたりも考えて配合とか製法をも見直すべきなのであり、以前のミキシングに戻したからと言って美味しくなるわけではないのと思うのです。

ということで伺って実際に作業をみせてもらうと・・・


今回は配合のおかしなところも修正させていただきましたが、それは明らかにおかしな部分だけであり、全体的にけしてバランスの良い配合であるとは私には思えませんでした。

また、製法はすべてストレート法で、しかも発酵させた生地をすべて冷凍保存して一週間かけて使用するというのがほとんどでした。

食パンもそうですよね。

なのに冷凍生地用の改良剤を使っていませんから、毎日ボリュームがなくなってきていますよね。

白神天然酵母や自家製の酵母を使った生地も冷凍されています。

さらにです、解凍後のまだカチカチな生地を復温もせずに無理やり綿棒で成形していますが、パンというのは発酵が命なのであり、それを行わないではたして美味しいパンになるものとお考えでしょうか?

今回の依頼で確かにミキシング時間のアドバイスを行いましたが、それは配合を大幅に変更することはしたくないというご意見を尊重しての、今現在の配合バランスでの最適ミキシングを考えただけの話であり、より美味しくなるような製法、よりしっとり感を長持ちさせるような配合を紹介したわけではありません。

捏ね方を変えただけで扱いやすくなった、ボリュームがでるようになったというのは、生地が元気になった証拠ですから、それはそのままにして、どのような製法にすればより美味しくなるかは次の段階の話であって、捏ね方だけがパンの味を総合的に左右させているわけではないのです。

今現在行われている製パン工程、そして配合というのは過去数年間受け継がれてきたものであると思います。

それをハイそうですかと変更してしまうことはけしてやってはいけないことだと思います。

そうではなくて、今ある配合と製法はすぐには変えられないが、捏ね方だけは最適に持っていくことが可能ですよというお話ですので、次のステップとして製法なりを見直していけばよいのではないかと考える次第です。・・・

ということで、しばらくは今のまま継続し、今後少しづつ見直していきたいというお話でしたが、正直不安です。なぜなら、国産小麦、そして数種の天然酵母をなぜ使用しているのかをきちんとご自分で理解出来ていないこと、これらの配合や製法、そしてミキシング時間というのは過去のスタッフが決めたもので、今では誰がなぜそうしたのかを知るすべがないこと、そしていちばん重要なのはオーナーが他人任せであることです。



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配合と製法が合っていない現実とは・・・

レーズンブレッドなどで100%中種法を今でも貫く珍しいパン屋さんだと思っていたのですが、実際にはせっかく中種で作った生地なのに分割後は冷凍されているのでした。

通常のストレート法の生地よりも当然ながら長い時間発酵させる中種法の場合、イーストの活動は実に活発で風船の数もかなり多くなります。

だからこそキメ細かなしっとりとしたパンが完成するのですが、それはあくまでその日に焼いた場合です。

こちらのお店ではその生地を分割後に冷凍しています。

こうなりますと、ほとんどの風船は冷凍障害を起こしてしまい、活動できるイーストにも損傷が及びます。

唯一それを補うのが解凍後の復温なのですが、特にそれも行わずに、ひんやりとしたカサカサな生地を綿棒で成形してしまいますので、ホイロでの発酵時間に5時間以上を要するのです。

これはつまりもうイーストに活力が残されていない状態ですから、当然ながらホイロが長くなり、オーブンでは全く伸びません。

しかもです、そのパンを低温で長い時間焼きますから、クラムすらパサパサで完成するのでした。

せっかく時間をかけて中種という貴重な製法に取り組んでおきながら、冷凍すると生地はどうなるのか、復温はなぜ大切なのか、なぜ高温短時間で焼き上げなければならないのかを理解していないがために、全く理想とは程遠いパンの出来上がりとなり、結論として全く売れない商品になっているのでした。

なぜなら焼き上がり時間が遅く、しかも焼き立てからパサパサだからです。

実は、他のパン屋さんでも多く見てきた焼成事例として、型で焼く大型のパンはケービングを防ぐために低温で長めに焼くという傾向がありました。

さらに、下火が弱く上火が強い傾向もあり、尚更腰折れのパンや下部が潰れているパンに出会うことになるのでした。

それ以外にも、今回ご紹介するお店の事例から学ぶべきことがいくつかあります。

それはこんな感じです。


配合や製法を見直す際の注意点1配合はどんなパンにしたいかをイメージして決めよう。     2製法は完成品のイメージと設備のバランスを考えて決めよう。  3完成品がイメージ通りになるまで修正しよう。         4それが自店に合っているかどうか客観的に判断しよう。


次回細かく解説して参ります。


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最終更新日 : 2022-03-06

No Subject * by 名もなき読者
ブログの更新再開ありがとうございます。
更新休止中も、このブログの理論・解説に度々お世話になっておりました。
今回の記事も、素人にはなかなか知る機会のない部分を知る事が出来、大変興味深く拝読させて頂きました。
次回の更新も楽しみにしております。

Re: No Subject * by しずかな朝
名もなき読者さん、コメントありがとうございます。
とても力になります。深く感謝いたします。
あなたのような読者がいる限り、続けていきたいと思います。

そなさんへ * by しずかな朝
そなさん
ご質問いただいたのに返信できずにすみません。
outlook.jp宛のメールには、なぜか返信することができませんでした。
2社のアドレスから試みましたが、どちらも駄目でした。
Outlookメールにはこれらの事象が多いようです。
面倒おかけしますが、一度他社メールか、あるいは携帯キャリアからのメールをお試しいただけたらと思います。

* by そなさんへ
メールアドレスは@アットマークの直前にハイフンを入れることはできません。
別のアドレスで今一度お試しくださいませ。

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No Subject

ブログの更新再開ありがとうございます。
更新休止中も、このブログの理論・解説に度々お世話になっておりました。
今回の記事も、素人にはなかなか知る機会のない部分を知る事が出来、大変興味深く拝読させて頂きました。
次回の更新も楽しみにしております。
2022-03-13-00:46 * 名もなき読者 [ 編集 * 投稿 ]

しずかな朝 Re: No Subject

名もなき読者さん、コメントありがとうございます。
とても力になります。深く感謝いたします。
あなたのような読者がいる限り、続けていきたいと思います。
2022-03-13-06:07 * しずかな朝 [ 編集 * 投稿 ]

しずかな朝 そなさんへ

そなさん
ご質問いただいたのに返信できずにすみません。
outlook.jp宛のメールには、なぜか返信することができませんでした。
2社のアドレスから試みましたが、どちらも駄目でした。
Outlookメールにはこれらの事象が多いようです。
面倒おかけしますが、一度他社メールか、あるいは携帯キャリアからのメールをお試しいただけたらと思います。
2022-03-21-03:57 * しずかな朝 [ 編集 * 投稿 ]

しずかな朝 

メールアドレスは@アットマークの直前にハイフンを入れることはできません。
別のアドレスで今一度お試しくださいませ。
2022-03-25-04:44 * そなさんへ [ 編集 * 投稿 ]