
テレビで放送される「人気ベーカリー特集」などを見ていると、「120種類の個性的なパンが勢揃い」というようなフレーズをよく耳にします。
「すごい、そんなに種類があるんだ~」とファンは大喜びでしょうし、同業者からすれば「そんなに作れるなんてどれだけスタッフがいるんだろう?」とか、「よくそんなにアイデアがうかぶものだ」などと関心する人もいるでしょう。
いや、うちだって負けてはいないぞと自信満々の150種類を揃えているというお店もあることでしょう。
誰でもが憧れる品数の多さ・・・ではありますが、それは売上規模に準じていればの話なのであって、売上規模が小さいのにも関わらずやたらと品数を増やしてしまうというのは少々話が変わってくるのです。
ということで、今回は売上規模が日商10万円に満たないお店なのにも関わらず、ひたすら品数を増やしていったお店の例をご紹介しながら、品揃えについて改めて考えていきたいと思います。
総アイテム数100種類、売上は平日が平均6万円、土日が平均9万円というこちらのお店。開店時とお昼時にお客様が集中し、その他はとぎれとぎれという印象の流れのなか、所狭しと色々なパンが並んでいて、とてもにぎやかな陳列となっている。食パンは3種類、フランスパンは一種類、ブレッドは2種類、サンドイッチが4種類、その他は菓子パンと焼き込み調理となっている。価格帯は比較的低価格帯で、オーナーの悩みは利益率の低さだと言うが・・・
このお店の雇われ店長はとても真面目で勉強熱心な方で、業社からもらった原材料サンプルは必ずパンにしてみるという素直な方なので、100アイテム以外にも日替わりのパンが数種類常にある状態で、昼時には棚に置ききれないほどのパンが並びます。
そこだけを見ればお客様からしたら「目移りするほど色々合って楽しい・・・」と思われていることは間違いなく、10年以上その地域で根ざしていこられた努力が良くわかります。
しかし、別の視点で見てみるととても残念なことが見えてくるのでした。
それは、毎日ほぼ1万円から2万円分のパンが売れ残り、それをすべて翌日半額にて販売しているというその手法なのでした。
大きなテーブルが用意されていて、そこに前日のパンがずらりと並んでいます。サービス品半額と書かれたポップがひときわ目立ち、当然のことながらそのパンしか買わない人、そのパンは進められても買わない人に分かれているのが印象的でした。
これはこれで一つの手法ですから、何が悪いというようなことではないわけですが、いくつかの問題点を含んでいることは間違いないでしょう。
それは、
という一面と
という2つの問題点があるからです。
廃棄するというのはもっての外ですから、割り引いて販売することはなんの問題もないように見えます。
ところが、そもそも元に戻って考えてみると、これは単に作り過ぎではないですかということなのです。
この売上規模で日に2万円分も売れ残るということは明らかに作り過ぎなのであり、それをあえて鮮度が落ちる翌日に販売して美味しさを半減させてしまっていることを考えなければいけないでしょう。
翌日になってもさほど品質が変わらないパンも確かにあります。
しかし、焼きたてパン屋に求められている魅力は間違いなく出来立てであるかどうかですから、自らお店の魅力を低下させてしまっていることになりはしないでしょうか。
そして何よりもオーナーが一番悩んでおられる「利益率の低さ」に貢献しているのがまさにこの半額パンの多さにあるのです。
店長の考えの中には「廃棄するよりも少しでも回収することが利益率アップに繋がる」という理屈があるようです。
また、半額を喜んでくださるお客様もいるということで、サービスとして定着しているともお考えのようです。
この考え方はけして間違ってはいないと思うのですが、先程も申しましたがそもそも作り過ぎなければここまで利益を圧迫するようなことにはならないのではないでしょうか。
店長のお考えでは「捨てることさえしなければ・・・」があるようなのですが、それは「もったいない文化」としての捉え方なのであって、現実に考えなければならないのは
すべてが定価での売上8万円と
定価での売上6万円➕半額販売2万円の場合の売上8万円
とでは、どう考えても後者に原価がかかっていることは明白でしょう。
要は作り過ぎに気がつけば、自然と利益率は上がってくることになるわけです。
ではなぜ作り過ぎてしまうのかについて考えてみましょう。
それは冒頭に紹介した「品数が多いことが人気店の証し」という考え方にとらわれすぎているからではないでしょうか。
”選ぶ楽しさ” という点ではアイテム数の多さにかなうものはないでしょうね。
ただしそれは残念ながら消費期限の短いパンの場合には、営業時間、客数、立地などを見極めた上で判断しないといけないことがわかります。
店長が「半額をサービスとして提供している」のであれば、利益率の低さは当然ですから問題視すること自体が間違っていると思います。
この点では解決法があるとすれば全体的に値上げをする以外に方法はないでしょう。
半額をサービスとしたいがために、全体を値上げしたのでは本末転倒ですしね。
また、私の印象ではこちらの店長さんは試作が大好きで、とにかく新しいパンを常にお客様に提供したい人であると感じました。
その事自体はとても素晴らしいことだと思いますが、反面とても多くの失敗作を生み出しています。
失敗作は従業員や友人知人に配られるわけですが、そこにも当然ながら原材料費というものがかかっているわけで、その分は売上として回収されることはありません。
また、あまりにも多くの失敗作を毎回毎回配られるので、誰もありがたく受け取りませんし、廃棄されることもしばしばなのです。
利益の本質を知ろう客数✕客単価によって作り出される売上。売上確保のための努力にも当然費用がかかる。使用した原材料、それを作るための時間、そして光熱費などのあらゆる経費、それらの合計が売上を上回らないようにコントロールすることが責任者としての勤めなのであり、サービスも試作も有償であることを自覚出来なければ、利益は生まれない。
一生懸命お客様を呼び込むために努力をされている店長さんには敬意を評しますが、お客様を喜ばすためにお店が苦しむ、ひいては従業員に利益が還元されない環境をつくりだしてしまっているかもしれないという現実には目を向けなければなりません。
そのうえで、具体的な対策を行うのに最も適しているのは「パレートの法則」で商品の売上構成を考えてみることでしょう。
パレートの法則とは、たとえばマーケティングにあてはめると、「全商品の上位2割が8割の売上をあげる」、「10項目の品質向上リストのうち上位2項目を改善すれば8割の効果がある」などのように使われている。「2:8の法則」とも呼ばれる。
皆様のお店でも分析すればほぼ当てはまるであろうこの法則ですが、お店の人気商品上位(全体の2割)が、お店の8割の売上を稼いでいる・・・どうですか、あてはまりませんか?
つまり、100アイテム揃えたところですべてが同じように売上に貢献しているわけではないという分析になります。
もっと言うと、商品ひとつひとつの原価率は違いますので、どのパンがどれだけ売れるかによって利益率も変わってきますし、手間がかかるかかからないかによっても製造原価が大きく変わってきますよね。
ただし今回はややこしいことは抜きにして、とにかくどのパンが人気上位2割をしめているのかを知り、そのアイテムを更に強化するための開発に絞ること、そして人気下位の商品は速やかに中止することを提案しました。
また、開店時にお客様が多いのは出来たての美味しさに魅せられているファンですから、もっともっと焼き回数を増やすことを提案しました。
総アイテム数を減らすことで、一つ一つの製造個数が増えると思われますので、その分焼き回数を増やしてほしいと思います。
また、昼時に集中するのは当然のことながら昼食として食べたいパンを買いに来るわけですから、その時間に合わせて調理パンの充実と焼き込み調理パンの焼き立てを提供してほしいと思います。
実行するかしないかは店長次第ですが、長く続けてきての今の売上ですから、伸ばしたいのなら思い切った決断は必要だと思います。
豊富な品揃えや割引とかポイントなどのサービス面を考えることよりも、「お客様が何を求めて来店しているか」をしっかり掴むことこそが、双方の利益を生むのだと考えます。
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最終更新日 : 2022-03-28