fc2ブログ

ベーカリーアドバイザーの部屋

パン作りのお悩み解決、超わかりやすくに挑戦しています。

Top Page › ベーカリー経営の深層へ › ここさえおさえておけば › 窯伸びの意味と理由を理解しよう
2022-07-09 (Sat)  11:08

窯伸びの意味と理由を理解しよう

24128661_s.jpg


2022年7月、まだ夏が始まったばかりだというのに、本当に暑いですねー

このまま行ったらどうなってしまうのですかね~

しかし皆様、これでも我が地球は長期的な流れでいうと寒冷期に入っているそうで、この数十年の暑さはほんのまやかしみたいなものらしいのです。

地球温暖化でこのままどんどん暑くなる・・・は大嘘ですから、皆様騙されないようにしましょうね。

ただし、この暑さがすぐに収まるという話ではありませんけどね(汗)

さて今回は、オーブンでパンが膨らむ 窯伸び について考えていきたいと思います。

これまた質問によく登場してくるのですが、「どうしたらこれ以上伸びないようにできるのでしょうか」とか、「なぜうまく伸びてくれないのでしょうか」というような対象的な質問をよくいただきます。

伸びないというのはつまり、オーブンで予想以上に膨らんでくれないという現象ですから、これは本当に心配ですし困りますよね。

相対して伸びすぎて困るというのはどういうことなのでしょうか?

例えばこんな感じでしょうね。


23649187_s.jpg


伸び過ぎるというか、暴れてしまうというか、とにかく形が整わない場合が多いようですが、一体なぜなのかという問い合わせに対して、私としては非常に不思議な気持ちになるのでした。

なぜならそれは「当然」だからですね。

しかし多くの方はその「当然」の意味を理解していないようなのです。

私自身はどの段階でこれらの知識が身についたのか、はたまた何かで勉強したのか覚えてはいないのですが、あまりにも日常のこと過ぎて逆にピンと来ないのでした。

通常手で生地に触れていて、そのことを手が分かっていないと、どのように生地と向き合っていったら良いのかがわからないと思うのですが、残念ながらそこを理解出来ていない方が意外と多いことがわかり、そういえばあまり触れてこなかったかもしれないと反省し、今回あえて取り上げようと思った次第です。

こう言うとまるで「こいつ技術力を自慢しているのか」のように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、パン作りというのは様々なアプローチの仕方があり、基本や製パン理論が大切な場合もあれば、経験やセンスが優先するような場合もあり、はたまた自由な発想と感性が醸し出すアプローチもあると私は考えています。

ですので、窯伸びのプロセスを知っていようがいまいが、それがただちに技術力となるわけではありませんので、必要だと思うなら柔軟に受け止め、自分のパンづくりには関係ないと思うならスルーしていただければ良いと考えます。

ではまず、窯伸びというプロセスを説明するにあたって、次の順番でアプローチしていきます。

窯伸びに影響するポイント1原材料と配合                        2ミキシング                         3工程


1原材料と配合

窯伸びに関係すると思われる原材料というのは何だと思いますか。

小麦粉・砂糖・塩・イースト・油脂・卵などがあげられます。

パン生地の骨格を形成する小麦粉のグルテン量(蛋白の量)によって、最強力や強力や中力や薄力があることは皆さんご存知だと思いますが、このグルテンの量と質によって形成される風船の伸びとかしなやかさが違っていき、当然ながらグルテン量の多い小麦粉ほどオーブンではよく伸びることになるわけです。

また、砂糖や塩というのは味の根幹を決めるものでもあるのですが、砂糖はその量によってイーストの発酵速度や継続力にも影響を与えますし、塩はグルテン強化に大いに貢献していますので、これらの量が少ないと窯伸びも少なくなるわけです。

そしてパン作りには欠かせないイーストですが、当然のごとく量が多くなればガス発生力が強くなり、しかも長続きしますから、窯伸びにはかなり影響力を持っているといえますね。

次に油脂ですが、バターやマーガリン、そしてショートニングだけではなく、液体油脂とも言える生クリームなども窯伸びには大きく影響を与えます。

高級食パンやスイート系の生地に多く配合されると思いますが、油脂量が多くなるとパン生地内の風船の周りに油脂膜ができて滑らかになり、パン生地が膨らんでいく際の摩擦を軽減して生地はどこまでも伸びようとします。

したがいまして、油脂量の多いブリオッシュなどは先程の画像のように暴れまくることが多く、それを補うには成形などを工夫するしかなく、丸くしたから丸く焼けるというわけにはいかないのが油脂量の多いパンの特徴でもあると言えるでしょう。

そして最後に卵ですが、卵の起泡性のお陰で様々なお菓子やケーキが存在するように、卵は油脂とは別のプロセスで単独で膨らもうとする力を持っているのです。

ですので、油脂も去ることながら卵の量が多いブリオッシュの場合は、どうしても大爆発を招くことになり、ブリオッシュを美しい形で仕上げることができれば、窯伸びは概ねマスター出来たと考えることができると思います。



4212146_s.jpg



2ミキシング

いかなる小麦粉を使おうとも、その捏ね方によってはグルテンの形成がきちんと行われずに、気泡の少ない、ずっしりとしたパンになってしまいます。

このイメージは家庭でのパン作りによく登場するわけですが、これはパン屋さんの業務用ミキサーのように上手にこねることが出来ない場合に起きる現象で、要するに捏ね不足なわけです。

捏ねが充分でないと、パン生地内の風船の量が少なく、しかも皮の厚い堅い風船になりますから、しっかりとオーブンで伸びることが出来ずにずっしりとしたパンになってしまうのです。

風船の量が少ないということは、イーストがいくら炭酸ガスを発生させたところで皆空気中に逃げてしまい、本来の風味すらパン生地内部に取り込むことが出来ません。

ここからおわかりのように、ただ単に強い粉を使ったからと言ってオーブンでよく伸びるパンになるわけではなく、十分に水和した、十分に捏ねられてグルテンがしっかり形成された場合にのみ、理想的な伸びが約束されることになるわけですね。

また、ただ単に時間を捏ねればグルテンが形成されるわけではありません。

このとき最も大切なのが捏ね上げる温度ですよね。

捏ねがスタートする前から生地温度が高いと、過度の摩擦熱が発生してグルテン形成がうまくいきません。

そうなるともうミキシング過多になることが多く、しかも捏ね上げ温度も理想より高くなってしまうために、その後もイーストはバンバンガスを発生させ、グルテンはむしろ破壊されていきます。
するとせっかく形成された風船も割れてしまい、結局ガスも空気中へ逃げてしまい、イーストは疲れ果ててしまってオーブンでは力を発揮できずに窯伸びの悪いパンになってしまうでしょう。

低めの温度からスタートして、最終的に理想の捏ね上げ温度になるように、時間と温度に注意して行う必要があるわけです。


3工程


十分に捏ねられたパン生地であったとしても、そして適度な捏ね上げ温度であったとしても、最終的に生地の取り扱いが悪く、生地にダメージを与えてしまうようだと理想的な窯伸びは得られません。

分割丸めや成形の上手い下手によってパンの出来栄えが大きく違うことだけは確かで、ふんわりしっとりなパンを作りたいのであれば、ここだけは技術力を磨く以外にありません。

ただ、あえて難しい成形を行うことだけが技術力ではありませんから、簡単な形にするとか、型やセルクルなどをうまく利用して、成形しなくても理想の形になるように工夫することも大切であると考えます。

また、同じ生地でもパンチを打つ回数によって風船の数は劇的に増えていきます。

ミキシングだけで十分捏ねるのではなく、柔らかい生地などの場合はむしろうまくパンチを利用して、ボリュームのある生地にすることが出来ます。

逆に、窯伸びしすぎてしまう生地(油脂や卵を多く含む生地)などは、捏ねたあとには冷蔵庫で休ませるなどして、生地にコシが入らないように工夫しないと、時間の経過とともにどんどん膨らんできてしまい、結局はオーブンで大爆発なんてことになりますから、冷蔵庫でベンチタイムを取りながら作業するようにしましょう。



1179262_s.jpg


また、窯伸びしすぎて困るパンの代表としてデニッシュがありますが、デニッシュの場合はパン生地そのものが膨らむのとは若干考え方が異なり、折込された油脂の層によって膨らみますので、この場合は折り方の工夫が大きく関係してくることになります。

かと言って、パン生地そのものも膨らんでしまっているようなら、それはもうダブルで膨らみ確定ですから、オーブンの中でトッピングがこぼれ落ちてしまうことになったり、カスタードが流れてしまったりすることでしょう。

デニッシュとかクロワッサンなどの折込生地は、しっかりと冷やして生地自体の発酵を制御しながら、コシが入らないように休み休み折り込んでいくことが大切です。

と、口で言うように簡単にはいかないのがデニッシュとブリオッシュだと思いますが・・・


さて、ここまではごくごく基本的な内容でしたので、油脂の量が多いほど生地はオーブンの中でよく伸びていき、卵が多いと油脂とは別の意味で膨らもうとする力が働きやすく、力の強い小麦粉でしっかり捏ねられたなめらかな生地は風船の数が多くなり、オーブンの中でもよく膨らむのだということが確認していただけたと思います。

しかし現場で一番多い問題点の中にはこんな現象もありがちなのですが、皆様のお店ではいかがでしょうか?


冷蔵・冷凍ならではの問題点●火膨れができてしまう・・・                  ●食パンの角に気泡ができてしまう・・・             ●ブレッドの内層に大きな穴が空いてしまう           ●デニッシュの表面がガリガリに硬くなる・・・          ●ホイロ後に卵を塗ろうとすると潰れる・・・          ●表面に小さなブツブツができて色付きが悪い・・・

さて一体どれだけ当てはまるものがあるでしょうか?

今どきのパン屋さんでは生地を冷凍・冷蔵することはほぼ日常的に行われていると思います。

しかしです、その冷凍や冷蔵によって生地が受けるダメージをあまり気にかける人はいないようです。

上記の問題点は皆冷凍や冷蔵に伴う弊害なのであり、この点をしっかりと理解しておかないと、効率よく焼けるようになった=品質はイマイチだが・・・となってしまうのです。

特にドウコンを使用して発酵をコントロールされているパン屋さんでは、これらの問題を必ずと言ってよいほど抱えているようです。

通常のパン作りでは、生地の捏ね上げ温度が26~28℃位で、その後もほぼその温度帯で成形までを終えてホイロに入ります。

この時の成形された生地全体の温度というものはどの部分もほぼ一緒なのはお分かりですね。

ではこれが例えば成形して型に入れたあとにドウコンにしまわれた食パンであったとしたら一体どうなるでしょう。

ドウコンの中はマイナス10℃以下だと思われますから、表面は意外と早く冷えて乾燥していきます。

しかし内部はと言うと、表面から徐々に冷気が入っていきますから、表面はかなり固まってきたとしても、その後だいぶ時間を置いてから中心部が冷えてくることになります。

このタイムラグの間もイーストは活動していますので、全体が完全に冷えた後のイーストの発酵力残高は場所によって違うということになるのです。

そしてドウコンはその後解凍へと切り替わり、最後にホイロになるわけですが、このときもやはり表面は早くに解凍されて発酵を開始するのに対して、中心部はまだまだ冷たいままで、結局生地全体が膨らんでいくまでの表面と内部ではかなりのタイムラグが発生することとなるわけです。

これは生地が大きければ大きいほど冷解凍に時間差が生じてしまうことを意味していて、例えば天板に乗せられた生地の端から冷えていって中央部の生地は後から冷えていくことになります。

もし型に入れた食パン生地を数本ドウコンに入れたのだとしたら、ただでさえも大きな生地なのに、それが数本ということはなかなか中央部の生地のさらに中心部はなかなか冷えないということになるわけです。

これらの総合的なタイムラグによって、生地内の発酵は非常に不安定になり、ひいてはそれが内層となって地層のように浮き出てきてしまうのです。

また、特に生地表面というのは冷気にさらされており乾燥気味になっています。

ちょっとでも元気のない生地だったとしたら、その時点で表面に冷凍障害が現れてしまい、ホイロ後には元気がなく、ブツブツの表情となって現れてしまうのです。

そこに卵を塗ろうものなら、さらに潰れてガリガリのパンの完成となるわけです。


お餅を焼くときのことを思い出しましょう。お餅には内部に気泡がありませんから、まずは全体的に焼かれて温度が上がっていきます。全体的に温度が上がっては行くのですが、やはり表面が先に焼けて乾燥していきます。更に温度が上がっていよいよ爆発しそうになると、表面の薄い場所が破けてぷく~っと膨らんでいきます。パンにできる気泡も火膨れも穴開きも原理は同じです。膨らみたい部分と乾いた部分に分かれてしまうと、このように突き破ってふくらんでしまうのです。


ここまでをしっかり理解しておけば、自ずと対策も見えてくるのではないでしょうか。

全体的にタイムラグを抑えるための工夫となるわけですが、そもそも設備には限界とか向き不向きというものがあります。

確かに全てを前日に行っておいて、当日焼きから始められるドウコン対応は現代のパン屋さんの勤務形態を考えれば必要不可欠でしょう。

しかしそれは小物のパン限定であり、原材料を多く含むリッチな生地に限定されます。

窯伸びに貢献する原材料を多く含む生地ならそれも可能だと思いますが、大きな生地やハード系は確実に無理があります。

それでもという場合には配合を変更して冷蔵耐性のある生地にするとか、成形そのものを工夫するなどが必要でしょう。

例えば、ブレッドの型に一つの生地を入れればワンローフとなるわけですが、これでは冷凍耐性がありません。

一つの型に2つの生地を入れればより元気になり、4つの生地を入れれば更に膨らみが良くなります。

膨らみが良くなるということは冷凍耐性も上がりますから、4ローフから6ローフなどで試してみるのも良いかもしれません。

このように、一旦冷蔵したり冷凍したりドウコン対応させたりすることで、グルテンの働きやイーストの働きに影響をおよぼすのだということ知った上で、今の問題点に取り組んでみていただけたらと思います。



24056200_s.jpg


キッシュのようにオーブンではほぼ膨らまないものは作りやすいですよね。

ドウコンで無理やり発酵させたパンよりも、むしろキッシュやパイやタルトなどを品揃えすることで朝一番のメニューを考えていくことも必要な気がします。

また、ドウコンも成形品を入れるだけのためにあるわけではありませんので、低温発酵庫として活用するなどして、朝分割から行えるようにする、あるいは成形から行えるようにするということも可能です。

アイデアは無限大ですから、どうか問題点に集中力を奪われることなく、広い視野にたって考えてみてほしいと思います。




関連記事

最終更新日 : 2022-07-09

Comment







管理者にだけ表示を許可