
ハサップがパン屋さんや飲食店に導入義務化されてから一年以上経過いたしましたが、皆様の職場はいかがでしょうか・・・
衛生的に生まれ変わりましたでしょうか??
「はぁっ??・・・」
そんな声も聞こえてきそうですが、何のこと??という方も多いかもしれませんね。
食品を製造して販売する以上、安全なものを提供するべく皆様も毎日毎日様々な努力をされていることとは思いますが、一般的な衛生管理のなかに、更に踏み込んだ、より食の安全性を求めるための指標としてHACCPにもとづく衛生管理を行うことが義務付けられた昨年6月、パン屋さんによってはしっかりとこのハサップを意識して取り組んでいるところもあります。
とは言え、やはりお客様がお店の中と外を行ったり来たりできる以上、徹底された衛生管理を・・・とまでは難しいと思われますので、「ハサップに基づいた・・・」をさらにゆるくして、「ハサップの考え方を取り入れて・・・」くらいならできるでしょうみたいな感じで、一応それでも義務化とはなったのでした。
今更HACCPって何?という人もいないとは思いますが、一応こちらで説明していますのでのぞいてみてください。
さて、大手が手掛けるベーカリーではすでに導入が完了しているHACCPですが、中小のパン屋さんの現状はいかがでしょう・・・
私の知る限りの印象では、特に何もやっていないというところがとても多い気がします。
本来は罰則もある義務化ではあるのですが、保健所もコロナで忙しいということもあってか、特に厳しく指導を行っているという感じでもなく、何も変わらず、そしてあいも変わらず汚いパン屋さんはかなり多いのが実情のようです。
私自身も大忙しだった焼き立てパン全盛期時代、まったく衛生管理に関しては無頓着でした。
それでも大きな事故がなかったのは、1つにはパンという食材は必ず焼かれますから、全ての細菌は死滅してしまい、結果ほぼ安全な食品として販売できていたからだという点。
ですのでそれでお腹を壊したりということはなかったはずですが、異物混入でクレームというのは日常的にありましたね。
今考えれば「そりゃそうなるわ」と思えるような認識しかなかったと感じています。
もう一つの大きな事故につながらなかった要因というのが、SNSなどによる一般食品警察のような人達が少なかったという点だと思います。
もし今異物混入などでリークされてしまうと、たちまち拡散されて大事になってしまう可能性がありますから、ネットが今ほど進んでいなかった当時はそれで助かっていたとも言えそうなのです。
さて今回、このことを書こうと思ったのは、これからのパン屋さんのあり方として、味とかセンスだけでは乗り切れない時代になっていく、もっと食品衛生に対する考え方を正さなければ、お店の安全が保てない、お客様に安心を届けられないのではないかとの思いからなのです。
より美味しいパンを・・・という思いはすべてのパン屋さんで共通の思いのはずです。
しかし、安心して食べていただけるパン、安全であると宣言できるお店づくりという点では、気持ちとは裏腹にハード面がついていかないという点もあるでしょうし、そもそも意識というソフト面もかけているように思います。
というのは、ほぼどのお店に伺っても 超汚い と感じるからです。
汚いというのは具体的にどういう感じなのかといいますと、
冷凍庫・冷蔵庫・オーブン・ミキサー・モルダーなどの毎日必ず使用するであろう設備を、掃除している形跡がない。何日も前のものだと確認できるようなパン生地があちらこちらに散乱している。工房内がクモの巣だらけ。壁が粉だらけ。ホイロやドウコン内部がドロドロで臭い。床が生地と粉と水でベトベト。
これを見て「ひどい」と思われる人は、きちんと掃除をされている人なのでしょう。
しかし、これでは済まないのが現実で、原材料の保管状況、小麦粉の保存状態の悪さ、冷蔵庫内の汚さ、設備と設備の間の隙間や裏側にいたっては、ほぼ無法地帯となっているのが実情なのです。
これらの意識の違いというのは、小規模のパン屋さんなら大手のパン屋さんの工房に一度でも入ればすぐに気がつくことですし、翌日から直ちに掃除にかかると思います。
「要はなんとなく忙しさにかまけて・・・」ということになりますから、気が付きさえすればすぐに行動に移せると思うのです。
問題なのは設備だと思うのです。
設備というのは配置が重要で、そもそも掃除をするための配置になっていないことがほとんどで、工房内のスペースの問題もあり、なかなかそこまでは出来ないパン屋さんが多いのが現実なのであり、「届かないから仕方なくやらない」ということで無法地帯になり、クモに蛾にゴキブリの棲家となるわけです。
いずれにしましても、毎日の掃除というものを「手間」だと捉えてしまうようだとHACCPなどというものは遠い存在でしかないでしょうし、「安全とは言えないお店で作る不衛生なパン」を提供していて大丈夫ですかと問われると、「大きなお世話だ」「味で勝負するから大丈夫」という訳には行きませんよね。
そこで今回は私が今現在お世話になっている工房の画像を少し紹介させていただき、少しでも衛生に対する考え方が前向きになってもらえたらと思います。
こちらの工場では、主にフランスパンを作って卸しています。
卸し先は一部地域のコストコやドン・キホーテ、セブンイレブンやTRIALなどの名だたるお店ばかりですが、その分商品の安全基準にはかなり厳しく、当然ながらHACCPの認定工場でなければ取引はできないのです。
こちらが醗酵室、つまりホイロですね。
大きなラックが4枚入る庫内になっています。
工場と言っても、大手とは比べ物にならないくらいくらい小さな工場ですから、大きな工房と言ったほうがいいかもしれません。
ホイロの内部というのは高温多湿ですから、この中が汚い工場も多いと思うのですが、壁や床も常に清掃されて最後は除菌も行います。
大きなラックが2枚入るラックオーブンですが、5年使い続けてこの輝きです。
オーブンの間、後ろ側にも人が入れるスペースを確保し、全面清掃可能だからこそ美しさを保てると行っても過言ではないでしょう。
焼いたパンを乗せるケースに、生地を入れる番重です。
当然ながら直置きはNGですね。
番重たちも5年間使用しているわけですが、この輝きです。
毎日必ず高温洗浄しています。
ここまできれいに管理している工場を、私は見たことがありません。
ただそれでけに掃除をする人は毎日とても大変です。
こちらがミキサーで、小麦粉4袋(100キロ)を捏ねることが出来ます。
ご覧のように、すべて清掃することを前提に配置されていて、このミキサーは毎日800キロの生地を捏ねています。
小麦粉の袋を32袋手で入れますので、なかなかの重労働ですが、飛び散る粉や生地の量は半端ではありません。
それを毎日ここまで、生地のかけら1つ残さずに掃除をしています。
ぱっと見てお気づきかもしれませんが、床が輝いていますよね。
このように床が掃除しやすい材質になっているということはとても重要で、これによって水を流したりするのではなく、掃き掃除とモップがけできれいにすることができるのです。
また、壁もそうですが掃除することを前提とした壁の材質にしておくことで、毎日掃除しようという気持ちにもなれるわけです。
小さなパン屋さんでこのような設備配置は難しいとは思いますし、何より今まではそこを目指してこなかったという実情がありますよね。
しかしこれからの店舗づくりの際には、ぜひ取り入れていただきたいと思います。
小さなリテイルベーカリーでも、HACCPの考え方を取り入れて様々なチェックを行っていたり、こまめな清掃を行っているパン屋さんもありました。
しかしどうしても設備の間、後ろ、上部となると掃除ができずに粉とクモの巣だらけになっているケースが目立ちました。
今後はなんとか設備の配置にまで気を配っていただき、ほんとうの意味での安心なお店を目指していただけたらと思います。
とは言え、具体的に掃除にかかる時間というのは半端ではありません。
「誰がいつやるか」を考えたときに、確実に清掃専門のパートさんの雇用も考えるべきであると思いますし、そこまでやると決めたのであれば、その分を売価に反映させてでも行うべきであると私は思います。
「私たちは安全なパン作りを行うための環境づくりに取り組むために、徹底した衛生管理に挑戦しています。」
そのように断言して、安心して来店してもらえることに自信を持って取り組んでいただけたらと願ってやみません。
お客様と直接やり取りができる焼き立てパン屋さんであるからこそ、その安心感は絶大な信頼へとつながるのではないでしょうか・・・
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最終更新日 : 2022-09-08