
カットしたパンの断面を見ただけで、おおよその味は判ると思っている自分がいました。
もちろん見た目通りの味のときも確かにあります。
しかし、この見た目だけで安心していて、後に味の変化に気がついたときの驚きと来たら・・・
穴の空き方とか層の出来具合とか色合いなども、その時その時の微妙な温度管理や焼き方などで違ってくることは理解はしていましたが、そんな理解はすっ飛ぶほどに味気ないパンになることが何度もありました。
配合のミスではないか、いや小麦粉の管理が悪かったのか、いやイーストが古くなってしまったのでは・・・などなど、作り方以外の原因を考えてみたりするのですが、どうやらそうではないらしい。
捏ねる時間はタイマー通りだし、発酵時間も多少の変化はあったにしても、そこまで味に影響が出るとは考えづらい・・・
という感じで、本当にハード系パンの品質の安定と言うのは難しいものであることは常に感じているところなのです。
さて、ではこのハード系パンの味や風味を不安定にさせてしまう要因というのは一体何だと思いますか?
それがズバリ 捏ね上げ温度 なのであります。
パン作りにおいて捏ね上げ温度というものがいかに重要かということは、パンを作っている方ならとっくに知っていて、十分に気をつけて作業をされていることと思います。
しかし、急に寒くなったり暑くなったり、あるいは担当を交代したり、あるいは急に捏ねる量が変わったりした場合、どうしても多少の捏上温度差が出てしまうことがあるはずです。
これが1℃から2℃くらいなら、何となくそのまま作業を継続してしまうことは多々あると思います。
また、慎重な人なら発酵時間を調整して作業を継続することもあることでしょう。
私自身が一番多く行う手法というのは、発酵させる場所の温度に気をつけることで、分割時にはいつも通りに修正されていることを主に考えて行っています。
捏ね上げ温度の重要性については、他のカテゴリでも何度も触れている製パンには欠かせない理論なのですが、一見そこだけを見てしまうと「ならば時間調整さえすれば大丈夫」と思いがちで、もっと言うなら捏ね上げ温度さえいつも通りなら、絶対に良いパンになるはずだと思われていることもあろうかと思うのです。
しかし、パン生地と言うのは捏ねられてから焼成されるまでの間、ずっと発酵が進行していますし、その間に生地が影響を受けるであろう温度や湿度などの環境に差があると、完成品にも確実に違いが出てしまうということを考えなければならないのです。
つまり、「どう捏ね上げてどのような環境で発酵させたか」が重要なのであり、トータルで安定させることが何よりも重要なのです。
特に真冬と真夏というのは、よほど空調システムが充実していないと温度環境はかなり過酷になります。
私自身の経験では、他の店舗にお邪魔させていただいた時点でそのことを指摘する確率はほぼ100%です。
つまり、ほとんどのパン屋さんでは真冬には寒い場所で作業されていたり、あるいは真夏には30℃を有に超えてしまうような環境で作業をしているというのが当たり前のような気がしました。
環境を整えるというのは確かに難しく、お金もかかります。
しかし、夏場なら生地は低温設定のドウコンで保管するとか、冬場ならオーブンや冷蔵庫などの上で保管するなど、とにかく生地の発酵環境だけは守らないと、確実に不安定なパンを作り上げる要因になってしまいます。
皆様は捏ね上げ温度の差が、どれだけの味の違いを生むのかを実感していますでしょうか。
私にはこんな経験があります。
市が主催したパン教室の講師として呼ばれてフランスパンのレクチャーをした時の事、皆で手で捏ねるので温度も捏ね方もバラバラなのは仕方ないと思っていたのですが、私が各テーブルを回っている際に講師のパンはアシスタントに捏ねてもらっていました。その時の捏ね上げ温度が3℃高かったのですが、時間の関係でうまく調整することができずに、そのまま焼成まで完成し見た目だけは生徒さんのものよりも遥かに美味しそうに完成したのでした。皆さん見た目は残念でも自分が作ったパンを嬉しそうに食べていましたが、講師のパンも食べてみたいということで、スライスして全員で食べた時の事、反応が微妙だったのです。講習が終わって改めて食べてみてびっくりしました。そこには味も素っ気もない、まるで食品サンプルなの?とでもいいたくなるような不味いパンが見た目だけ美しく存在していたのでした。そして一部の生徒さんのパンを頂き、見た目は悪いのにすごく美味しいと感じ、とても恥ずかしい気持ちになったことがありました。
とある婦人会の集まりの際、朝食として提供するパンをということでサンドイッチや菓子パンを作って配達することになり、その際一番自信のある新作で驚かしてやろうと思って作ったのが、茹でたじゃがいもを練り込むパンでした。時間が押していたこともあって、茹でてから冷ます時間もなく捏ねてしまったために4℃も温度が高くなってしまい、生地を冷やしながら早めの作業に取り掛かり、いつも通り美味しそうに完成して安心した私は配達へと向かいました。皆様大変喜ばれていましたので、よしよしとホッとしてはいたのですが、私が一番欲しかったじゃがいもぱんを食べた時の感激とか感動の声が聞こえてきません。何となく聞いてみると皆さん美味しかったですと言ってくれたのですが、どうも薄い反応が気になって一口食べさせていただいたところ、驚くほどまずかったのです。日頃プロだと名乗っておきながら、いざという時にこんな不味いパンを提供してしまったことを心から恥じました。
という具合で、穴があったら入りたいとはこの事でしたね。
どちらも捏ね上げ温度が上がってしまったことは解っていたにも関わらず、「まあこれくらいなら」と考えてしまっていたのです。
私は自分が作ったパンをほぼ毎回必ず食べます。
なぜならこれらの経験から「絶対的自信」を持てずにいるからです。
しかしそのおかげで、どのような対処をすれば必ず修正できるかなどがしっかりつかめてきました。
何となくしか捏ね上げ温度を見ていない人のパンというのは、実はかなりの確率でまずいパンになっているかもしれません。
気をつけてくださいね。
さて、捏ね上げ温度はとにかく大事なのですが、そもそも何故温度の違いでそうも味や香りに影響が出てしまうのでしょうか。
それは、捏ね上げ温度が高い生地と捏ね上げ温度が低い生地とでは、捏ねられている際の摩擦温度が違うということなのです。
これも他のカテゴリで何度も説明してきたことですが、小麦粉というのは捏ねれば捏ねるほど味が悪くなり風味もなくなってしまいます。
生地の温度が初めから低めの場合には、捏ねていても温度はあまり上昇してこないのですが、初めから温度が高いとその後もグングン温度が上昇してきます。
同じ時間捏ねていたとしても、生地同士の摩擦は高い温度のときに多くなりますので、どうしても高温の生地のほうが摩擦を多く受けるのです。
したがいまして、捏ね上げ温度が高くなるということは、同時に捏ねすぎにもなるのです。
このことがパンを不味くしてしまう最大原因ですので、ミキシングの途中で温度が高めであることに気がついた場合には、ミキシングは短めで終了しておかないと不味いパンが確定されてしまうのです。
前回焼成冷凍のパンは焼き方が重要であるという話をしました。
しかし、どんなに焼き方にこだわってとしても、そもそも生地そのものが美味しくなければ意味はありませんよね。
ということで、捏ね上げ温度と発酵環境がしっかり守られた生地を高温短時間焼成したハード系パンというのは、冷凍した際に最も美味しいパンになるのだということをお伝えしておきます。
通常の焼き立てよりも更に美味しくなった焼成冷凍のハード系パンなら、解凍するだけですぐにこれらのサンドイッチとして提供することができるのでとても便利です。
そしてなにもハード系パンだけが焼成冷凍に向いているわけではありません。
ソフトなパンや菓子パンも焼成冷凍すれば更に美味しくなるのです。
このように加工するパンについては、焼成冷凍で保存してあるととても便利です。
小刻みに解凍して使用することができるので、食品ロスにも確実に貢献しますよね。
今後ますますこの製法が求められていくと思います。
何よりも美味しさの追求の為に、そして作業工程飲み直しの為にも・・・
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